2017/05/20(土) 19:13

【続・熊本へのラブレター】菜種油にかける「良いもの」への思い〜熊本県益城町で被災した坂本精油がこだわり続ける「古式圧搾製法」に迫る

良いものを安くにこだわる

震度7の地震を2度経験した益城町。倒壊した家の多い地域の中で、もくもくと伝統的な製法で油を搾り続けている工場があります。菜種油を中心に油をつくり続けている坂本製油さんです。
もともと熊本には多くの製油所がありました。しかし時代の流れで多くの製油所が閉鎖、廃業を余儀なくされていったのです。そんな中で地域に根付いた確かな製品づくりで生き残ってきた製油所がいくつか残り、今も製造を続けています。坂本製油もそんな製油所のひとつ。2015年、引退を決意した先代は、自ら立ち上げた工場を従業員だった中上貴裕さんに託しました。中上さんは先代の信念と製法を引き継ぎ、「安いから良いのではなく、良いものを安く」「子育て世代の方々や食にこだわりをお持ちの方に継続的に利用していただきたい」という思いで、圧搾製法という伝統技術による「一番搾りのみを使用した無添加無着色の油」をつくり続けています。

 

震源地の衝撃を笑いで乗り越える

 

IMG 6283坂本製油の通り沿いも倒壊した家屋が多くある

中上貴裕さんとパートナーの恵さんは工場を引き継いでから、坂本さんから引き継いだこの「良いもの」の価値をいろんな人に知ってもらいたいと、今までとは違う形で販路を広げてきました。熊本市内で開かれるオーガニックマーケット「アースデイマーケット」などにも出店し、県内で活動する仲間とも出会った頃、熊本地震が発生。工場のあるのは益城町。中上さんの自宅がある宇城市から、倒れた建物が立ち並ぶ道路を通って工場にたどり着くと、工場と先代の住まいは形を残していました。しかしいくつかの壁は崩れ落ち(写真下)、工場の中は割れた油の瓶や原料が散乱した状態だったそうです。そんなひどい状況で大変だっただろうと思ったら、
「開けたらごま油の匂いでした(笑)。菜種よりもごまの方が香りが強いんですよね」
と恵さん。そこにあるのは明るさだけ。辛かった思いや嘆く気持ちは全く感じさせません。彼女の屈託のない笑顔が周囲を明るく変えています。

 

IMG 6207

 

焙煎や搾油、瓶詰めに使う機械も無事で、取引先の人や近所の人の力添えも得て工場の片付けが進み、どうにか事業を再開することができたそうです。そんなことを話しながらも笑顔が絶えない2人。前向きに進んでいく姿にこちらが元気をもらいます。
貴裕さんは製油所を継ぐ時に、恵さんの両親から猛反対を受けました。そんな両親に会うために実家に出向き、とにかく2年やらせてくれ、ダメだったら辞めるからと説得したのだとか。大量生産で安い品物が手に入る時代に、低価格の実直なものづくりをしていても儲からないというのが多くの人が考えることでしょう。しかし、そんなリスクを背負ってまで貴裕さんが守りたかった油というのは、どんなものだったのでしょうか?

 

安全な油ってどんなもの?

 

IMG 6280

 

体によい油をつくるのに一番大事なのは搾り方と言われています。坂本製油の菜種油は、遺伝子組み換えでない菜種を、抽出用の薬剤を使わない伝統的な圧搾製法で搾った一番絞り油。菜種は元々熊本産の物を使っていました。しかし近年は県内の菜種の生産量低下が続き、オーストラリア産に切り替えています。菜種のしらしめ油は、菜種油の色と香りを柔らかくしたものでクセがなく、どんな料理にも使いやすくし上がっています。坂本製油のしらしめ油は菜種油に石灰をまぜて色を吸着し、湯洗いを4回繰り返してつくります。

 

【菜種油の絞り方】

① 焙煎

sz 01

タンパク質と油脂を分解しやすくするため、釜で40分炒める。110℃の低温で焙煎する。

 

② 連続圧搾

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薬剤を使わない伝統的な搾り方で、圧搾率は60%~70%程度。市販の大量生産の油は薬剤を入れてさらに油を搾りきっていく。

 

③ 湯洗い・沈殿

sz 03

不純物を除くため70℃のお湯でかくはんし、3日かけて沈殿させる。製品にはこの上澄みだけを使用する。

 

④ 火入れ

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水分を除き、完全に不純物を除く。 120℃の低温での加熱のため自然の成分が残る。

 

⑤ 濾過

sz 05

温度を90℃まで下げ、布と和紙で、ろ過。

 

⑥びん・缶つめ

sz 061本1本手作業で詰めていき、ラベルを貼って完成。


DSC 9628使用済の瓶は回収し、洗って再利用。

(資料提供:坂本製油)

 

こんなふうに分けられる植物油

 

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坂本製油の商品は菜種の他に、ごま、椿、紅花があります。ごまはアフリカ産、紅花は南米産を使っています。椿は熊本産を使っていて、近所の人が拾った種を持ち込んできたりもするのだそうです(写真上)。材料はどれも遺伝子組み換えでないものを使用しています。油にはいろんな名前がありますが、ネーミングは主に原料、精製度、用途によって行われています。以下にわかりやすくまとまったサイトがあったので紹介しておきます。

一般に、「サラダ油」「天ぷら油」「白絞(しらしめ)油」という呼び名と、「なたね油」「べに花油」「調合油」などの呼び名が一緒に使われているために混同しているのですが、JAS(日本農林規格)ではきちんと規定しています。それによると、植物油は精製度合により「半精製油」「精製油」「サラダ油」に区分けされています。

「半精製油」はごま油やオリーブ油のように、原料の持ち味を生かすためにほとんど精製していないものです。
「精製油」は脱酸、脱色、脱臭を行ったもので、通常「白絞油」「天ぷら油」などの名称で流通されているものです。
「サラダ油」は精製油の基準に加えて色や冷却安定性の基準があります。サラダ油はマヨネーズやドレッシングなど冷えた料理に使うために、低温でも油が濁りにくく、風味も油っぽくならないようにしてあります。

また、JASでは油の名称も定められており、「なたね油」「べに花油(サフラワー油)」は原料の種類を表わすもの、「調合油」とは2種類以上の油を混合したときに用いる言葉です。たとえば、なたね油については「なたねサラダ油」と「なたね精製油(天ぷら、白絞油)」と「なたね油(半精製油)」があります。調合油についても同様です。

出典:日本植物油学会

一般に大量生産されている植物油は、一度搾った搾りかすに薬剤をかけて抽出したものや、何種類かの油を混ぜたものも多くあります。誰がどんな風につくったかを知るのは食の安全を考える上で鍵になるのです。

 

良い材料の油を選ぶには?

 

DSC 9621

 

かつて日本の菜種自給率は100%を誇っていました。しかし1971年の菜種貿易自由化以降減少し続け、現在では0.1%以下まで落ち込んでいます。現在輸入菜種のほとんどがカナダのキャノーラ種となっています。スーパーでもたくさん売られているキャノーラ油。キャノーラ油も菜種を原料にしていますが、何が違うのでしょうか?

キャノーラ油はカナダ産の菜種、セイヨウアブラナを品種改良したキャノーラ種を原料にしています。キャノーラ菜種は遺伝子組み換え技術によって生まれた品種です。遺伝子組み換えは遺伝子操作をすることで病害虫から作物を守ったり、個体の大きさを変えたりすることができることから、食糧確保のために必要だという理由で研究が進められてきました。しかし、安全性について十分な検証がされておらず、問題点を指摘する学者もいる状態で、日本でも日清やブルボンといった大手企業が遺伝子組み換え原料を使用しない方針を公表しています。
参考:http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/food/truefood/8

 

遺伝子組み換えって何?

 

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遺伝子組み換え(Genetically Modified)は、生物の遺伝情報を伝えるDNAの中から人間が利用できそうな性質を持った遺伝子を発見し、それを別の生物のDNAの中に組み込む技術のことです。従来の品種改良では、同種または近縁種の掛け合わせでできていましたが、遺伝子組み換えは種を超えた交雑が可能になり、植物のDNAを動物に組み込むことも行われています。遺伝子組み換え作物(Genetically Modified Orgasnisms・略してGMOと呼ばれる)を使った食品の危険性は、健康面、環境面、社会面で指摘されています。

遺伝子組み換えは、植物でも、動物でも行われていますが、作物で一番多いのは、除草剤をかけても枯れないという「除草剤耐性」の植物をつくること。除草剤をかけると他の雑草はすべて枯れてその作物だけが生き残るので除草の手間が省けるという目的でつくられていますが、耐性のある雑草が誕生し、いたちごっこになっているのが現状です。また、殺虫剤を減らす目的で、害虫が作物を食べると死んでしまう「殺虫性」を持たせたものもあります。しかし、害虫を殺す毒素を持っているものを人間が食べて大丈夫かどうかは、現段階の実験結果だけではわからないと指摘されています。
組み込まれた遺伝子を機能させるための「プロモーター」と呼ばれる物質も一緒に組み込んでいますが、そのプロモーターが目的以外の遺伝子を起動させ、有害な物質を作り出す危険性があるという指摘もあります。つまり、想定外の有害な物質が、私たちが食糧としている動植物の体内でつくられているかもしれないんですね。

環境面では、輸入されたこぼれ種が自然に芽を出し、自然交雑によって在来種が失われるなど生態系の破壊につながる可能性があると指摘されています。そして、耐性を持った雑草や害虫を駆除するためにより強い農薬が使用され、土や水を汚染したり、人間と共存すべき動植物を蝕む可能性もあります。そしてそれは、私達人間にかえって来ることでもあるのです。

社会面では、経済的な影響を大きく与えています。遺伝子組み換え作物の種子は価格も高いのですが、収穫量があがる、農薬を使わなくていいと勧められて種を購入したところ、栽培がうまくいかなかったり、耐性がついた雑草や害虫が繁殖して農薬を使わないといけなくなったり、土地が痩せて化学肥料を使わないといけなくなったりして、農家が大きな負担を負うことになった例が多く報告されています。例えば、2005年に遺伝子組み換えされて殺虫性を持ったBt綿を導入したインドのマハシュトラ州ビダルバ地区では、2006年までの1年間で600人、2年目は半年で680人が自殺に追い込まれ、自殺者は倍のペースに加速したといわれています。Bt綿の種は通常の種の4倍の価格だそうです。また、アメリカの種子会社モンサント社は自社商品に特許をかけているのですが、自然交雑した種子を栽培していた農家を訴えたり、ライセンス契約を迫ったりする事件が複数起きています。本来自家採種していた種を高額で購入しないといけなくなると農家の打撃は大きくなりますし、種の多様性も守れなくなります。

このようにいろんな問題を含んでいる遺伝子組み換え作物。様々な情報が飛び交う中でわからないことも多く、不安もありますが、身近にできる解決策があります。それが日々のお買い物。あなたの選択で、健康と環境、社会によいものを選んでいきたいですね。

参考&オススメサイト
http://gmo.luna-organic.org/?page_id=18
http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/food/gmo20years/

 

私がオススメします!

 
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〜益城町在住・坂井さとみさん〜

坂本製油のご近所さん。坂本製油の油をこよなく愛する坂井さとみさんは、小さい頃から自宅で油用の菜種を育て、油屋さんで油にしてもらっていたのだそう。菜種油の香りを身近に感じながら育った彼女のオススメは?
「坂本製油のしらしめ油が普通のサラダ油とは違うなって一番感じるのは、揚げ物をする時。昔ながらの香ばしいなたねの香りで揚げ物がカラっと仕上がり、お部屋が油臭くなりません。しらしめ油にごま油を少し加えて揚げ油にすると、さらに香ばしく、美味しくなりますよ!」

 

HP http://sakamotoseiyu.jp/

facebook https://www.facebook.com/sakamotoabura/

 

この記事は 2630 回読まれました 最終修正日 2018/04/07(土) 16:21
澤田佳子 さわだけいこ Kco Sawada

ローカルメディア3代表・編集長。コミュニティ×循環型の暮らしを求めて関東から九州へ。九州のローカルネットワークをつなぎながら、固定概念を超えた新たな選択肢「次の暮らし」が生み出す世界の実現に向かう。

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