2018/02/28(水) 12:07

【続・熊本へのラブレター】地域の枠を越えた周遊型阿蘇ツアーで、これからの観光を提案する〜南阿蘇村観光復興プロジェクト交流協議会代表・河津誠さん〜

南阿蘇村の観光の原点であり要でもある地獄温泉、垂玉温泉。地震後も涸れることなく湧き出す自噴泉は、江戸時代から続く湯治の湯として広く知られている。地獄温泉清風荘のオーナー、河津3兄弟の長男・誠さんは、地震後から復興に向けて南阿蘇の中小事業者が集い「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」(以下、グループ補助金)の申請を行う「南阿蘇村観光復興プロジェクト交流協議会」(以下、協議会)を取りまとめ、南阿蘇村の復興に向けて努力を続けてきた。地震から2年が経とうとしている今、彼は南阿蘇村の将来をどのように描いているのだろう? じっくりとお話を伺った。

復興スピードの違いで生まれた温度差から、新たな活動スタイルへ

 


 kyougikai被災した人達自らの手で復興していく決意表明でもあった協議会の立ち上げ。その後、全国から様々な協力者が現れた。

 

 

——グループ補助金は東日本大震災で被災した中小企業の事業者を支援するために生まれた制度で、事業費の75%(国が50%、県が25%)を上限に補助するというシステムですね。熊本地震でも適応されて、各地域に補助金を申請するためのグループが生まれていますが、南阿蘇村ではいち早く協議会が立ち上がりましたね。南阿蘇村は県内でもいち早くグループ補助金のための取り組みを始めましたね。現在の進行はどうですか?

 

「取り組んだのは早かったですけど、実施は遅かったですね。メルヘン村のように敷地がなくなってしまって居場所さえ確定できないとかですね。うち(地獄温泉清風荘)は申請できたんですが、お隣の垂玉温泉の山口旅館さんは、敷地の周りの状況、道路、河川、山のがけ崩れなどがまだ解決していなくて、先が見えないですよね。ああいうところは申請できてないんですよ。114社の申し込みのうちの、11件はそんな状態で、まったく進んでいません。半数は本申請も済んで許可も降りていますけどね。困っているのは、建てたいんだけど道路の復旧がいつになるかわからないとか、後ろの山がどうなるかわからないとか、そういうところですよ」

 

——確かに、どんなにやる気があっても、被災者自身では解決できないところがあると進められないですよね。

 

「そうなんです。そういうところと、もうすんじゃったところでは熱量が違うんですよ。1周年イベント(The Day Project -Meeting in 南阿蘇村 vo1)は協議会みんなで頑張ったんですが、それぞれの状況の違いもあって、協議会全体の活動としてはソフトランディングさせていこうと思っています。

 

今後もイベントは形を変えながら続けていきたいと話している人達もいるので、会員のみなさんには「任せてください」とお話しして、了承を得ました。集めていた会費も返して、現在は、1周年イベントで集めたお金と補助金や助成金で運営していくようにしています。昨年10月に私が代表となって「エンパワー阿蘇」という一般社団法人をつくったので、そっちの方でイベントと旅行商品をつくって販売していくような活動に移行していく予定です」

 

——そうなんですね。一般社団法人の立ち上げには、どんな方々が集まっているんですか?

 

「1周年のイベントロスがドーンときて、執行委員5名の間でも気持ちを上げていくのが難しかったんです。2年目になってそれぞれに復興の進行状況も違っていて、自分の事業の再建があってそれどころじゃないってこともあったりして。私の場合は戻る場所がありますが、一緒に頑張ってきた仲間の中には、諦めずに夢を抱き続けているけど戻る場所がなくなっている人もいて、活動に無理に引き留めることもできない。そんなふうにひとりで困っていた時に、グループ補助金の申請サポートをしてくれていた有限責任監査法人トーマツの植田さんが、別の団体をつくって引き受けましょうよと言ってくれたんです。

 

わかるんですよ。それぞれが大変なのも。稼業が潰れている状態でこっちもやれよというのは無理なことなんです。そんな状態の中で、地震前のように村の中の人達だけでやっていくのは無理だと思いました。それで、村という枠の中ではできないのなら、阿蘇のエリアならどうだろうと考えたんです。植田さんの人脈も合わせて繋いで、南小国の黒川温泉観光旅館協同組合事務局の北山さん、南小国観光協会事務局長の森永さん、阿蘇神社門前町の旧女学校でアンティークショップTOMMY’Sをやっている富沢さん、一般社団法人東の食の会の熊本支援から南阿蘇村に移り、みなみあそ村観光協会の事務局長になった久保くん、メルヘン村の栗原さん、長陽駅駅長の久永くんなどです。私たち地獄3兄弟も入っていますが、顔ぶれを見ると、ほとんどが移住者じゃんって(笑)」

 

--私もそうですが、みんな「ここが好き」で移ってきていますからね(笑)。

 

「そうなんですよ(笑)! だから、ここをどうしていきたいかを考える時に力が出てくる。10年後とかを考えたら、今変わらないといけない。そのために、外から来た人の感覚は力になりますよ」

 

 

概念にとらわれない、周遊型の阿蘇ツアーを売り出したい

 


DSC 8574 道路沿いにからもたくさんの牛が見えるが、牧野の中に入るとさらに間近で遭遇できる。地元民にとってはなんてことない風景が、観光客には貴重な体験となっていく。

 

「補助金をもらうことが前提の事業で、消費するだけの経済になったら、将来はないと思います。普段営業しているとなかなか外に出られないのですが、今回の地震で外に出る機会ができて、いろんなところに視察に行けたんです。すでに成功している観光地の黒川や湯布院でも変わろうとしていることがわかって、とても勉強になりました。

 

南阿蘇も、地震を機に変えていきましょうよ。

 

そのためにも、地域を超えて民間でつながっちゃえと。いろんな刺激を受けながらいい商品をつくって、いろんな人がワクワクしながら参加できるような仕掛けをしていきたいです。行政はいろんな縛りがあって身軽には動けないですが、あとで役場も参加したいって言ってくれるような、ね(笑)」

 

--それは楽しみですね! 阿蘇周辺で連携をとって周遊できると、新たな観光のあり方を提案できますね。特に最近はインバウンドが注目されていますが?

 

「インバウンドは力を入れていきたいですよね! 実はもう、企画をすすめているんですよ。東京の事業者の方で、テリー・ロイドさんのジャパン・トラベル株式会社が企画するウォーキングツアーをもうちょっと田舎寄りにしたツアーをしたいという人と出会って、私達で阿蘇版を準備したんです。ハートランド・ジャパンの澤野さんが、私達がやってきた復興協議会の活動や1周年イベントを評価してくれて、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカの富裕層向けに売り込みをしていこうと話してくれているんですよ。4月を目処に売り出していこうと準備を進めています。2018年内には実施催行を実現したいですね」

 

*Aso Walking Tourプロモーションビデオ公開中

 

 

--日本の田舎やありのままの暮らしを知りたいというニーズは結構多いようですからね。海外からのお客様には、阿蘇の暮らしや田舎らしさに価値を感じていただけると思います。ツアーはどんな内容なんですか?

 

「阿蘇エリアを5日くらいで楽しめるツアーになっていて、熊本から入って、南阿蘇、阿蘇、小国、黒川と回廻って、湯布院で解散です。南阿蘇では水源を廻るんですが、白川水源のような有名なところではなくて、寺坂水源や西宮水源など生活と近いところにあるものを提案しています。阿蘇市では二重の峠を歩いたり、産山では棚田を見学します。1泊5万円、4泊で20万円のツアーで、対象は、仕事の一線から引いたような富裕層。ウォーキング協会なんかにもアプローチして、実施催行を増やしていきたいですね」

 

--地元じゃないとわからない魅力的な場所を連携してつないでいく感じですね。海外からのゲストは住んでいると想像できないような長距離移動をするから、彼らのニーズにあっているかもしれませんね。一か所の滞在時間は長くはないけど、行きたいところにはどうやってでも行くって感じ、ありますから(笑)。自分が海外を旅している時も、そういうところありますね。

 

「そうそう。協力し合って彼らのニーズに合った商品を生み出さないとね。このまま南阿蘇だけの復旧と、村の一部の復興だけ考えていても、阿蘇の観光が復興していかないと思っています。これから日本の人口はガンガン減っていくわけですから、土日のお客さんだけではとてもやっていけない。平日を安定的に埋めてくれるのは海外のお客さんですよ。その、海外のお客さんを呼ぶには南阿蘇だけでは呼べないんです。阿蘇エリアの中でできるだけ長く滞在してもらって、なるべく地域お金を落としてもらうようにしていかないとですね。外輪山の内側から外側まで旅をしてもらうようにプランニングして、ツアーによっては県外、高千穂なども入れていったらいいと思いますよ。

 

で、そういう内容は、地元がつくり上げないとできないんですよ。野焼きの牧野に入るのだって、地元の私達がコーディネートしたらできる。一緒にやることで特別なツアーをつくっていけるんです。

 

 

次世代、移住者、いろんな人達が混じり合って描く未来像


theday logo 1周年イベントの製作には、地元だけでなく移住者も含めた子育て世代が多く参加し、様々なアート作品が発表された。

 

 --復興協議会の中には、若手が中心になって動いている「未来会議」もありますね。彼らとはどんな形で役割分担したり、連携したりしているんですか?

 

 「新しい発想がある若い人達が集まって自由に動く方がいいと思って、50歳以下の人達のグループをつくったんですよ。その中から、地域にある資源を掘り出して商品化していく企画の第一弾として「プレミアム・ナイトトレッキング」が生まれました。KIRINさんが資金提供してくれて、実施催行までたどり着いています。次年度からは独自に動いていかないといけないのですが、現場で動く人達は商品を広く売るところにまではたどり着けないので、人脈や経験のある私達のような上の世代が売る方をやろうと思っています。

 

そのためには、情報をまとめて紹介するプラットフォームをつくる必要性があるんですけど、スピードが一番大事なんですよね。それには制約のない民間でやるのが向いていると思って、エンパワーで始めることにしました。村では昔からの人間関係が出来上がっているので、誰かと何かをやろうとすると、ひとりひとりのつながりを全部調べないといけなくなるんですよ。村、議員と言っている間にすぐに時間が経ってしまうので、民間らしく進めていく方が性に合っているなあと思って(笑)。

 

旅行会社の方でWebも立ち上がります。阿蘇、山口、熊野古道、青森のツアーをつくられていますが、地元と一緒にツアーをつくり上げたのは阿蘇だけだから、看板になると思いますよ。ツアーにはフリーの日もあるので、次の日のメニューを未来会議でつくっていって、お客さんが自分がやりたいことを自由に選べるように充実されていくといいと思います。自分のところにお客さんが来るかどうかは、事業者の努力次第。私も一事業者として頑張らないといけませんね(笑)

 

 

 南阿蘇村で観光に携わる団体は、エンパワーの他にもみなみあそ村観光協会がある。観光協会の代表を務める河津三兄弟の次男・謙二さんにも、観光協会のヴィジョンを聞いてみた。

http://local-m-info.check-xserver.jp/kiji-list/46-minamiasokmurakankoukyoukai1.html

 

<地震から1年までの様子は『ローカルメディア3 vol.4 熊本へのラブレター』に収録しています>

http://local-m-info.check-xserver.jp/vol-4.html

 

この記事は 3096 回読まれました 最終修正日 2018/04/17(火) 05:35
澤田佳子 さわだけいこ Kco Sawada

ローカルメディア3代表・編集長。コミュニティ×循環型の暮らしを求めて関東から九州へ。九州のローカルネットワークをつなぎながら、固定概念を超えた新たな選択肢「次の暮らし」が生み出す世界の実現に向かう。

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