2018/03/14(水) 13:00

【続・熊本へのラブレター】「すずめの湯」から生まれる新たな湯治カルチャー〜地獄温泉清風荘・河津誠さん、河津謙二さん〜

復興への長い道のりを歩く中、会う度に、不思議なくらい明るさを増しているように感じる、地獄温泉清風荘オーナーの河津さん一家。まだまだ始まったばかりの再建への道の中で、彼らの目にはどんな未来が写っているのだろうか?

(被害の概要)地獄温泉清風荘は熊本地震で周辺の道路が破損して孤立化。その後の梅雨の土砂災害で山から大量の土砂が流れ込み、敷地内が多くの土砂で埋め尽くされた。牧野に道をつくるところから始まった復興作業は、のべ3000人を超えるボランティアの参加を得て進んでいった。損傷の大きかった建物はほとんどが解体となり、業者による解体が終わったのが2018年3月。しかし、元々の幹線道路の開通にはあと1年かかる。唯一の通行路は大型の工事車両が頻繁に行き来するため、温泉旅館の再建と営業の再開はまだめどが立たない状況にある。

⇨地獄温泉について知りたい人はこちらの記事
⇨熊本地震後の清風荘の様子はローカルメディア3vol.4熊本へのラブレレターで。

 

 

清風荘は200年の挑戦の先にある

 

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 左から、長男で社長、フレンチシェフの河津誠さん、次男で副社長、経営担当の河津謙二さん。

 

誠 経済産業省の地域中核企業創出・支援事業に応募して、地獄温泉清風荘が認定されました。これは地域を牽引する事業者を見つけ出して、その成長を支援していくことで地域経済を活性化していこうというものなんですが、今私達が考えている、地獄温泉がプラットホームになって、うちに泊まられたお客様に地域の観光メニューや他の宿泊施設などを紹介していく「地獄ツーリズム」の構想を話したら、経産省の方がすごくわかってくれて。そういうものにこそ使って欲しいと、応援してくれることになりました。経産省の応援があるなら心強いですよね(笑)。

これは地域にとってもチャンスだと思うんですよ。地獄温泉がよくなるだけではなく、期待されている地域中核企業として役割を私達がきちんと果たすことで、関わってくれる人達や地域全体も豊かになっていくようにしていきたいと思っています。

 

--旅のあり方は多様化していて、最近はインバウンドの受け入れが注目されていますが、200年の歴史を持つ地獄温泉でも受け入れていきますよね? どんなプランを考えていますか?

 

 いろんな方達と相談しながら進めているところで、ヨーロッパ、アメリカの富裕層にどうやったら選んでもらえるかを考えています(笑)。清風荘は欧米のお客様で、日本の観光地はもう行ったというような人を対象にしていきたいと思っています。

阿蘇のような田舎を目指してくるのは、本物志向の方になると思うんですよ。東京、京都、広島などのみんなが行くような観光地にはもう行っている、大手旅行会社が提供するような作り上げられた旅行は欲しくないと思っているような人達に、阿蘇の自然と人々の暮らし、神様などに興味を持ってもらえないかと思っています。

 

謙二 カルデラの中に暮らしている人達は、火山と一緒に生きている人達。これは世界的にも珍しいことなので、自然だけではなく、そういう暮らし全体を売りにしていきたいと思っています。黒川温泉や湯布院にも視察に行きましたが、あれだけ成功している観光地でも、今、また変わろうとしているんですよね。そういうところがとても刺激になりました。

黒川温泉では、温泉旅館が泊まらなくていいって考えているんです。泊まらないで、温泉に入るだけ、散策や食事を楽しむだけのお客様も黒川に来てくださいと積極的に受け入れていこうとしています。旅館は泊まってもらうのが仕事ですが、そんな今までの概念にとらわれず、訪れてくれる人を増やそうとしているんですよ。今からはそういうことを考えていかないといけないと思いましたね。

 

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 森、草原、田畑、集落がひとつながりになったカルデラの暮らし。人と自然の関わりの中で独自の環境と文化を継承してきた。

 

 私はこれからの観光業を南阿蘇村という概念でやろうという気持ちはないですね。熊本県という発想でもない。阿蘇が噴火して火砕流が届いたところ、四国や山口も含めた広い範囲でのツーリズムを考えていくようなことができたらおもしろいと思っています(笑)。

 

--ずいぶんスケールが大きいですね! 外国人の感覚は日本人にはわからないところもあると思いますが、湯治という伝統文化を彼らにどう伝えるか、そして、理解した上で体験してもらうことは旅の経験として重要になるでしょうね。その分、受け入れ側としては、とてもチャレンジングな感じがしますね。

 

 実は、地獄温泉はそういう会社なんです(笑)。江戸時代から変わらないというイメージがありますが、長い年月の間、ずっと挑戦してきたのがうち。なぜ200年続いてきたかというと、常に挑戦してきたからなんですよ。

うちにとって、震災は大きな打撃でしたが、それがきっかけでできるようになったこともたくさんあります。

経産省の地域中核企業創出・支援事業の予算からお金を出して「阿蘇地域初の海外富裕層向けの滞在交流型高付加価値観光商品の開発事業」を立ち上げ、大分県の別府市にあるAPU(立命館アジア太平洋大学)の大学院生と「阿蘇地域における訪日外国人観光客向け滞在交流型ツーリズム開発の潜在能力調査」をしたのは面白かったですよ。

私が大学の講義で阿蘇のことを話し、学生達に実際に見に来てもらって、いろんな意見を出してもらいました。南阿蘇まで来てくれた15人は全員が外国人で、国際交流をベースにしながら観光をメインに勉強している学科の学生達です。ほとんどがアジア圏で、アジア太平洋の目で見たものを率直に話してくれたのはとてもよかった。最後は学生達がそれぞれ発表してくれたんですが、その成果は私達観光事業者にも学生にも両方の役に立つし、とても参考になりましたね(笑)。もう少し大きなスパンでお付き合いをしていって、彼らにも外国人目線の商品を作ってもらうなどしていけたらいいですね。

 

 

新しい伝統をつくる清風荘の再建プラン


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 すずめの湯周辺の建物は解体され、入り口から見えるのは脱衣場と内湯、外湯の屋根だけになった。[/caption]

 

--ようやく解体の目処がついて、まずは入浴からの再開になるそうですね。先人達が200年かけて作り上げてきた施設でたくさんの建物がありましたから、全てを元のようにしようとすると時間もお金もかかりそうですが、再建はどのようなプランを考えていらっしゃるんですか?

 

 そうですねぇ。200年かけてつくられてきたものをゼロからプランニングできることなんて、ないでしょ? ワクワクしますね(笑)。今までの建物は大きすぎて使いにくいところもあったので、再建では必要なものを近くに集めて、規模を縮小してつくる予定ですよ。全てを自分達がつくるのではなく、この先の人達のための余白も残しながら、新しいプランを描いているところです(笑)。

これから私達がやろうとしていることは、自分が死んでからも実るものばかりだと思います。ですから実現までに時間はかかりますが、やりたいことはどんどんやっていこうと思っています。夢みたいなことは言いっ放しでもいいけど、現実化するためにはできることは自分でやっていかないといけないし、目の前のことをちゃんとやって責任を取らないといけないですよね。ですから、これがあるからできないという言い訳のようなことは発想の中から飛ばしてしまって、こうありたいということ、どういう人達と繋がるかということにフォーカスして進めていこうと思います。

 

謙二 清風荘の再建には9億5千万円かかる予定で、グループ補助金を除いても2億4千万円程の自己資金が必要になります。これを回収しながら事業として成立させていかないといけないので、宿の形態は大きく変えていきます。単価を今までの倍にして、1泊2万円台にする予定です。

 

--ということは、湯治用の自炊棟はなくなるんですか?

 

 それは意地で残します! 阿蘇で湯治が残っているのはうちだけなので、湯治文化はこれからも継承していきます。

 

 湯治客の最大の目的はすずめの湯に入ること。全国各地に常連客がいて、身体のために長期滞在する人も多い。

 

--あ〜。それを聞いて安心しました(笑)! すずめの湯は本当に体が軽くなりますからね。私も体調が悪い時は2時間くらい入っていたので、ないと困るお湯です。必要とされている方がたくさんいますよ。

 

 そうですよね(笑)。宿泊棟はキッチンやリビングを共有するシェアハウス的な要素を取り入れた、ゲスト同士の交流が図れる施設にしていきますよ。

APUの学生が来てくれていろいろわかったことがありました。温泉は日本人にはイメージがあるからスッと理解できるけれど、外国にはそんなイメージはないし、そもそもみんなと裸でお風呂に入る習慣がないんですよね(笑)。地震ですずめの湯のまわりが壊れて外から見えるようになったので、これからは見えるお風呂にしようと思ってるんですよ。すずめの湯は混浴ですから、みんな入浴用の服を着て入るようにして、外から見えるオープンな湯治の湯にするんです。お風呂はもう、隠れて入るのではないという提案ですね(笑)。着衣で入るのはヨーローッパでは当たり前のことですし、そうしたら、女性も入りやすくなるでしょ? 今までは女性専用時間が1時間しかなかったから、入れない人もいましたよね。おじさん達がいっぱい入っているところにはなかなか入れませんもんね。

 

--とっても助かります(笑)!。

 

 (笑)。常連さん、特に男性からはクレームが出るでしょうが、それは仕方ないですね。そもそも、今までの観光自体がおっさん中心だったんですよ。これからは女性の視点を取り入れてつくっていかないと。露天風呂だって、女性は外を囲わないといけないから景色がいいところが少ないでしょ? 今度の女性の露天風呂は一番高いところにつくって、景色が一望できる最高の空間にしますよ(笑)。それから、すずめの湯は粘土で白く濁っていて底が見えないので、入るのが怖いですよね。特にお年寄りは。なので、湯船に入る時に段差をなくして、歩いて進んでいくと自然に入れるようなスロープをつけようと思っています。

 

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 図面を見ながら再建後の計画を話す二人。頭の中には50年後、100年後が描かれている。[/caption]

 

 

<清風荘復興プラン:必要なもの、本物を集めて新たな価値へ>

 

新しい清風荘は、玉名在住の建築家に設計を依頼し、伝統に新しいものを加え、新しい伝統をつくっていくことをテーマとしている。解体せずに残した明治建築の本館は、20部屋を10部屋に減らし、障子と畳の間から、現代風の鍵のかかる部屋に作り変える予定。玄関周辺には庭をつくり、景色のひらけた宿泊スペースを確保していく。

 

DSC 2416 3 全体ラフ。左下がすずめの湯、中ほどの部分の左が明治時代の本館、中央下が本館、中央が浴室、一番上は男女別露天風呂。[/caption]

 

すずめの湯は、変わらず混浴を続けるが、いろんな人が気兼ねなく入れる構造を意識している。脱衣所は木造とコンクリートを組み合わせた建物。今までは外から脱衣所への入口と、脱衣所からお風呂への出入口が同じだったが、入口を裏手につくり、服を着たままの人とお風呂に入ろうとしている人が鉢合わせしないようにデザインされてた。湯船側の出口には、湯上がりにくつろげるようウッドデッキを併設する。

「コンクリートを組み合わせることで最初は違和感があるでしょうが、そこに苔や蔦が生えていくことで、歴史を感じさせる建造物に変わっていくんですよ。50年も経てば伝統的な建物に変わっていくでしょう」

と誠さん。

 

DSC 2420 2 白い箱状の建物がコンクリート制の脱衣所。それぞれが内湯を通って別々の道から混浴の浴槽に向かう設計。[/caption]

 

男女露天風呂、岩風呂と仇討ちの湯は破損したため、全面的につくり変えになる。下のイラストは女風呂。コンクリートなどを使ったシンプルなデザインの浴室に、広々としたウッドデッキが続いていて、外に出ると周囲が一望できるつくりになっている。裏手は山で、敷地内の一案高いところにあるので、周りを気にせず絶景が楽しめるようになっている。

 

DSC 2421 2 緑に囲まれた中、他では味わえないよな開放的なお風呂が楽しめる女性の露天風呂。[/caption]

 

 

化石燃料を使わないカルデラのまちもいいと思う


asochuoukakoukyuu 自然との共生をエネルギーまで広げていくと、新たな地域モデルとしての可能性が広がる。

 

 

--地獄温泉も意識を変えながらより現代のニーズにあった旅を提供していこうという思いが強いんですね。地域とも連携しながらやっていきたいということですが、これからも魅力的な地域であるために必要なのはどんなことだと思っていますか?

 

 立野からカルデラの中に入ったら化石燃料は一切使わない、というのもいいんじゃないですか? スイスのツェルマットみたいに(笑)。

阿蘇は自然が売りだし、自然エネルギーの資源もたくさんありますよ。風、地熱なんでも揃っている。小水力発電も水路を使えばいろんなところでできるでしょうし、そういう、未来につながる提案を増やしていきたいですね。そういう思い切った取り組みをするところには観光客がたくさんくるでしょ? 地震という出来事をきっかけにして、現実的に動かしてきたいなあ。

 

謙二 阿蘇はエリアとして一つになるべきだし、そこでの旅行に関しては、インフォメーションセンターで明日の予約をできるような仕組みをつくっていきたいですね。例えば、清風荘に泊まったお客様が翌日参加するアクティビティを探せるとか、次の宿を探せるような形態をつくって、阿蘇エリアを周遊してもらうようにしたらよいと思いますね。

 南阿蘇はまだ自然が残っていますから、今バラバラでやっていることをつなげながら、自然を楽しめるようにしていくのがよいと思うし、それぞれが自発的な発想をしながらおもしろいプランを考えていきたいですね。例えば、南阿蘇鉄道は元のような鉄道に直すよりも、観光用のロープウェイの方がいいんじゃないか?とかね(笑)。そうしたら、立野に戻れない人たちの空き地が駐車場になって収入になるかもしれないですし。

 

 地域で事業者同士がつながっていくのは重要ですよ。うちの旅館でも、和食の料理人の弟(三男の進さん)が地元の食材が手に入りにくいと言っていましたが、地元で採れた野菜をもっと地元の宿泊施設で出せるようにしていきたいですよね。お客様も土地のものが食べられたら喜ぶし、そうやって事業者同士が経済的につながってお金を回していけるようになると、生活に余裕が出てきて、農家さんも元気になると思いますよ。そんな形で農業と観光業がリンクしていけたら地域全体が元気になりますね。

 

謙二 旅行者は楽しそうだからやってくるし、移住者になるような人達も楽しくないとこないですから、住民がおもしろいことを考えて提案していけるようにしたいですね(笑)。

 

 

<清風荘再建に向けてファンド設立・出資者募集中!>

https://www.securite.jp/fund/detail/4295


まずは日帰り入浴を実現するためのお手伝い。ひと口1万円で・すずめの湯源泉(380ml×1本)とおすすめタオルのセット、または、すずめの湯入浴券2枚(1枚につき、お1人様1回ご入浴可能)がもらえます。

 

 

<地震から1年までの様子は、『ローカルメディア3 vol.4 熊本へのラブレター』に収録しています>

http://local-m-info.check-xserver.jp/vol-4.html

 

次回は地獄温泉の地震直後の様子と現在の様子を写真で振り返ります。

 

 

この記事は 3633 回読まれました 最終修正日 2018/04/17(火) 05:28
澤田佳子 さわだけいこ Kco Sawada

ローカルメディア3代表・編集長。コミュニティ×循環型の暮らしを求めて関東から九州へ。九州のローカルネットワークをつなぎながら、固定概念を超えた新たな選択肢「次の暮らし」が生み出す世界の実現に向かう。

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